新米数学博士の数学談話室

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数学基礎論からじっくり議論するブログです。

幾何学Vol.1:図形と「距離」①

こんにちは!ルシアンです。 随分と間が空いてしまい、すみません>_<

 

今回から、「大学数学プレスタディ」の幾何学シリーズを始めていきます^o^

 前回→新企画「大学数学プレスタディ」を始めます! - 新米数学博士の数学談話室

 

 

図形を「イレモノ」に頼らず定義するには…

前回の記事において、「幾何学」シリーズでは

イレモノを用いないで図形を定義する

という目標を掲げました。

 

では、具体的にどうするか。

代数学では、

集合+「なにか」

の形で、新しい概念を定義することがよくあります。

 今回は、まず

図形=集合+「距離」

として、「図形」を定義する方法を紹介します。

 

 

集合における「距離」

はじめに、「集合における『距離』とは何か」を定式化しましょう。

普段私たちが「距離」と呼んでいるものには、次の性質があります。

 

0.ふたつの地点  x,y に対して、「 x y の距離」とよばれる実数  d(x,y) が定まっている。

1. d(x,y) は必ず0以上、つまり  d(x,y) \geq 0.

2.特に、「距離が0」つまり  d(x,y) = 0 となるのは、 x=y のときのみ。

3.距離はどっちから測っても変わらない: d(x,y)=d(y,x)

4.「寄り道をする」=「他の地点  z を経由する」と遠くなる:  d(x,z)+d(z,y) \geq d(x,y)

 

代数学では、身近にある「距離」とよばれるものから、この4つの性質を見いだして、数学に取り入れています。

実際、「集合の上の『距離』」は次のように定義されます。

 

ステップ1:

まず、「考えたい全ての地点」を集合  X としましょう。

そして、「二つの地点」を表すために、

 X \times X := \{ (x,y) \mid  x,y \in X \}

という集合を考えます。(「 :=」という記号は「左の記号を右の意味で定義する」という意味です。)ここで、  (x,y) は形式的に  x y を順に並べたものです。*1 一般に、この  X \times X を「 X 同士の直積集合」と呼んだりします。

 

ステップ2:

次に、実数値関数

 d: X \times X \to \Bbb{R}

を考えます。

つまり、「  (x,y)\in X \times X のそれぞれに、実数  d(x,y) を対応させる」のです。(これが、上の「0番」の性質に対応しています。)

このとき、この関数  d がちゃんと「距離」と呼べるものになるよう、次の条件をみたしていることを要求します。

1.全ての  x,y \in X について、  d(x,y) \geq 0

2.特に、 d(x,y) = 0 \Leftrightarrow x=y

3.全ての  x,y \in X について、  d(x,y)=d(y,x)

4.全ての  x,y,z \in X について、 d(x,z)+d(z,y) \geq d(x,y)

 

これで、集合  X の上の「距離」  d を考えることができました。

このとき、集合と関数の組  (X,d)距離空間、実数値関数  d距離関数とよびます。

 

 

なぜ「集合+距離」が「図形」と思えるのか?

このように、「距離関数」を考えれば、集合 Xの上の「2地点の間の距離」を定められます。

 

では、これで Xは「図形」とみなせるようになったのでしょうか?

この疑問を考えるには、「現代数学の『図形』の捉え方」を知る必要があります。

 

「『点の位置関係』が定まった集合」が「図形」とみなされる

一言で「図形」といっても、その中には直線、円、多角形、曲面、多面体など、様々な対象が含まれていなければなりません。

その、図形と呼ばれるべき対象の「全てに当てはまるものは何か?」という疑問に対し、現代数学

「『点の位置関係』が定まった集合」を「図形」とみなす

という答えを出しました。

 

では、先ほど考えた「距離空間」は、「『点の位置関係』が定まった集合」になっているのでしょうか?

 

距離空間上では、「円」を考えることができる

実は、集合 X距離空間となった時、わたしたちは「円」を考えることが出来るようになります。

実際、ある点 x \in Xと正の実数 \varepsilon \in \Bbb{R}を選ぶごとに、

 C_{\varepsilon}(x):=\{y \in X \mid d(x,y)=\varepsilon \}

と定めれば、 C_{\varepsilon}(x)はまさしく「中心 x、半径 \varepsilonの円」と呼ぶのにふさわしいものになります。

 

さらに、

 U_{\varepsilon}(x):=\{y \in X \mid d(x,y) \lt \varepsilon \}

という部分集合を考えれば、これは「 xとの距離が \varepsilon未満の地点」の集まりということになります。

まさに、現実世界でいう「半径5キロ圏内」のような考え方ができるということですね。

この U_{\varepsilon}(x)を、よく x \varepsilon-近傍とよびます。

 

この考察では「『点の位置関係』が定まった集合か」という疑問の答えとしては不十分かもしれませんが、今後具体的な例を見ていくことで、「距離が生みだす位置関係」を実感できると思います。

 

おわりに

次回は具体的な距離空間の例を考えて、その上の円や \varepsilon-近傍について考察してみたいと思います^ ^

 

更新を待ってくださっていた皆様へ:

ブログの更新ペースを宣言したにもかかわらず、長い間休止してしまって申し訳ありません> <

気持ちが「良い教材を作りたい」という方向に偏りすぎたためか、筆が止まってしまいました…。

改めて初心に立ち返って、このブログは

「私が見つけた数学のコツや勘どころを皆さんとシェアする」

という方針で進めていきたいと思います。

教材としては甘い作りになってしまうかもしれませんが、皆さんと楽しい時間が過ごせれば何よりです^ ^今後ともよろしくお願いします♪

 

 

 

 

*1:この  X \times X を集合と呼んで良いのかどうか、というのは、より厳密な立場での数学の問題になります。気になる方は「数学基礎論」シリーズで一緒に考えていきましょう^ ^