新米数学博士の数学談話室

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数学基礎論からじっくり議論するブログです。

新企画「大学数学プレスタディ」を始めます!

こんにちは、ルシアンです!

今回、新企画「大学数学プレスタディ」を始めることに決めました!(^0^)/

この企画は、大学数学を学びたい全ての人にとって、そのハードルが少しでも下がるよう、高校数学からの中間ステップを提供したい、というものです。

本記事では、大学数学の概観と、企画の概要についてお話します^ ^ 

 

「大学で勉強する数学」とはどんなものか?

ご存知の方も多いかも知れませんが、大学数学(の中でも純粋数学)は、

  • 幾何学…空間や図形の性質を調べる数学
  • 代数学…足し算や掛け算などの「演算」の性質を調べる数学
  • 解析学…関数の性質を調べる数学

の3つに大別されています。

 

これから始める企画「大学数学プレスタディ」では、「幾何学」「代数学」「解析学」の3つのシリーズを並行して進めていきたいと思っています。

(並行といっても、進度は週にどれか1つ、くらいのんびりになる予定です…^^;)

 

今回はそのそれぞれについて、「高校までとどう違ってくるか?」に注目して大まかに話してみます。
「高校数学との違い」を3分野まとめて一言で言い表すと、それは最も根本的な問いかけと、その問いかけに対する現代的な答えから始まるというところです。

 

現代の幾何学は「図形とは何か?」から始まる

高校数学で「図形」というと、何を思い浮かべますか?

直線、円、三角形など色々あると思います。しかし、ここで注目してほしいのは

図形は必ず“イレモノ”に入っていた

ということです。イレモノとは、具体的には「真っ白な平面」、「座標平面」、「座標空間」などでした。

 

でも、ちょっと想像してみて下さい。

例えば、学校の校庭に円や三角形を描くとします。このとき、校庭はイレモノと見なしてよいでしょう。

一方で、宇宙からその校庭を眺めるとしましょう。すると、

「校庭は地球のほんの一部分」

ですよね。そしてさらに、

「地球は宇宙の一部分」

なわけです。

つまり、宇宙をイレモノと見なしたら、地球や校庭は「図形」と見なすことになります。

この様に、立場を変えればイレモノ自体も図形と見なされるという現象が起こります。

 

では、「宇宙のイレモノ」は存在しないのか?存在するとしたら、宇宙はどんな「図形」なのか?また、「『宇宙のイレモノ』のイレモノ」は…?

こうやって考えると、きりのない問題になってしまいます。

 

現代の幾何学では、この問題を

イレモノを用いないで図形を定義する

ということで解決しました。

幾何学」のシリーズでは、この「図形を定義する方法」について探求していきたいと思います。

 

現代の代数学は「演算とは何か?」から始まる

2つの数同士の「足し算」や「掛け算」は、小学校から時間をかけて身につけるため、今さらあえて「演算」などと呼ぶ必要性は感じないかもしれません。

しかし、高校で「ベクトル」を習った時は、

「矢印同士を『足し算する』ってどういうこと!?」

と思った人も多いのではないでしょうか。また、

  • 「ベクトルの足し算」の定義、それで自然なの?
  • 「ベクトルの内積」って、もはやベクトルじゃなくなってるけど、それでいいの?

などの疑問もあり得ると思います。

現代の代数学では、「演算」の概念を抽象化して、ベクトルに限らず様々な現象の中に演算を見いだす、ということをしていきます。

例えば、

等の中にも、「演算」が潜んでいることが知られています。

代数学」のシリーズでは、この「『演算』の抽象的な定義」から話を始めたいと思います。

 

現代の解析学は「実数とは何か?」から始まる*1

高校で学んだ関数は、

  • 1次関数  y= ax +b、2次関数  y= ax^2 + bx +c
  • 三角関数  y= \sin x, y= \cos x, y= \tan x
  • 指数関数 y=a^x、対数関数 y= \log_a x

などがあったと思います。

これらに共通する点は、

「実数 xごとに、実数 y=f(x)を対応させる」

という点でした。

そして、連続性・微分可能性などの「関数のつながり方」などを調べたわけです。

 

では、その“おおもと”である「実数のつながり方」はどうなっているのでしょう?

高校では、次の2つのことを習ったと思います。

  • 実数は数直線上の点と1対1に対応する
  •  \sqrt{2},\piなどは「無理数」とよばれ、「整数÷整数」では表せない。

しかし、実はここには「大きな落とし穴」があります。

というのも、厳密な数学の立場では

数直線は「『実数全体の集合』を図形とみなしたもの」として定義される

のです。したがって、実数を数直線で定義してしまうと、循環論法(循環定義)になってしまう

のです!

したがって解析学では、まず初めに

数直線に頼らずに、「実数全体の集合」を定義せよ

という課題にぶつかります。

 

しかも、有理数全体 \Bbb{Q}

 \Bbb{Q}= \{ \frac{q}{p} \mid p自然数,  q:整数,  p,q:互いに素 \}

のように書き表せますが、「無理数」まで含めると、こんなに単純には考えられません。

解析学」のシリーズでは、このギャップを埋める方法について見ていきたいと思います。

 

3つの分野は「集合論」という土台を共有している

いままで3つの分野を別々に見てきましたが、これらは「集合論」の言葉で記述されるという共通点を持っています。*2

それぞれのシリーズを進める上で「集合論」が必要になった場合は、シリーズ「集合論」として区別して進める予定です。

(いずれ、連載中の「数学基礎シリーズ」と繋がったら楽しいですね^ ^)

 

あとがき

これから展開したい「大学数学プレスタディ」への導入を試みましたが、いかがだったでしょうか?

シリーズ展開はのんびりしたペースになるかと思いますが、お付き合いいただければ幸いです♪

感想やご要望など、いつでもお待ちしております^o^

 

*1:「極限とは何か?」からでも十分だろう!という声が聞こえてきそうですね。笑 しかし、高校における無理数の扱いが曖昧なことは確かですし、解析学という分野において「実数を定義すること」は大切だと思っています。

*2:各分野の発展系の中には集合論に収まらないものもあります。