新米数学博士の数学談話室

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数学基礎論からじっくり議論するブログです。

小話Vol.3:関数の「無限小バトル」と「微分可能性」

こんにちは!ルシアンです。

新年度、みなさんはよいスタートが切れているでしょうか??

 

私は年初めに掲げたブログ計画を全く達成できていないのですが、年度が明けて気持ちが前向きになってきたので、そろそろ頑張りたいと思っています^^

 

それで、シリーズの続きを…と行きたいところなのですが、今日はちょっと思いつきで「微分」に関連する小話を書いてみたいと思います。

 

関数同士を競わせてみる

今日の話の主役は「関数」です。*1

つまり、ある実数 xから、別の実数 f(x)への対応を考えます。

具体的には、

 f(x)=ax+b f(x)= ax^2 + bx +c f(x)=\sin x f(x)= \cos x f(x)= \tan x f(x)=a^x f(x)= \log_a x

などなど、高校までの間にも色々と習っていると思います。

 

これらの関数の、

 y切片、導関数、グラフ 、 \ldots

などの「関数の性質」については、高校でも教わると思います。

この記事では、ちょっと趣向を変えて、

「関数同士を競わせる」

ということを考えてみましょう。さながら、関数同士にスポーツをさせるようなイメージです^ ^

具体的には、関数の「無限小バトル」という競技を考えてみたいと思います。

 

「無限小バトル」の参加資格

まず、今回の「無限小バトル」に参加できる関数は、次の条件を満たすものだけとします。

  •  f(x) x= 0の近くで定義されている。
  •  \underset{x \to 0}{\lim}f(x)= f(0)= 0

つまり、 f(x)は「 x=0のまわりで、限りなく 0に近づいていく関数」に限るということです。

 

これは一見厳しい条件に見えるかもしれませんが、実は好きな関数 f(x)から、参加資格をみたす関数を簡単に作ることが出来ます。

実際、 f(x) x=aの近くで定義されているときは、

 \widetilde{f}(x):=f(x+a)-f(a)

とおけば、この \widetilde{f}(x)が参加条件を満たします。

この方法を、上に並べた関数に実際に適用すると、

 \widetilde{f}(x)=ax \widetilde{f}(x)= ax^2 + bx \widetilde{f}(x)=\sin x \widetilde{f}(x)= \cos x -1 \widetilde{f}(x)= \tan x \widetilde{f}(x)=a^x -1 \widetilde{f}(x)= \log_a (x+1)

のようになります。*2

 

 

「無限小バトル」の対戦ルール

では、次は「無限小バトル」の対戦ルールを見ていきましょう。

まず、参加条件をみたす2つの関数 f(x), \ g(x)を用意します。

この2つの関数について、

 x 0に近づけるとき、どちらがより急速に 0に向かっていくか」

によって勝敗を決します。これを

「どちらの値がより急速に小さくなるか」

と言い換えると、より「無限小バトル」の雰囲気が出るでしょうか。

 

より厳密には、

{ \displaystyle \begin{equation} \lim_{x \to 0}\frac{f(x)}{g(x)}  \end{equation}}

の振る舞いを見ることで勝敗を決めます。

例えば、

 f(x)の方が g(x)よりうんと速く小さくなる」

ならば、分母より分子の値の減少スピードが勝り、 \frac{f(x)}{g(x)} \to 0 となりそうです。一方、

 g(x)の方が f(x)よりうんと速く小さくなる」

 ならば、分母の値が急速に小さくなることで  \frac{f(x)}{g(x)} は発散すると予想できます。また、 

 \underset{x \to 0}{\lim} \frac{f(x)}{g(x)} が実数  \alpha \neq 0 に収束する」

という可能性も十分あり得ます。この場合は、比の観点から

  •  |\alpha| \lt 1 なら  f(x) の勝ち
  •  |\alpha| \gt 1 なら  g(x) の勝ち
  •  |\alpha| =1 なら 引き分け

と考えてみましょう。

 

これで、たいていの場合の勝敗はつきそうですね。まとめると、

  1.  \underset{x \to 0}{\lim} \frac{f(x)}{g(x)}=0 ならば、 f(x) の圧勝
  2.  \underset{x \to 0}{\lim} \frac{f(x)}{g(x)}=\pm \infty ならば、  g(x)の圧勝
  3.   \underset{x \to 0}{\lim} \frac{f(x)}{g(x)}= \alpha \neq 0のときは、
  •  |\alpha| \lt 1 なら  f(x) の判定勝ち
  •  |\alpha| \gt 1 なら  g(x) の判定勝ち
  •  |\alpha| =1 なら 引き分け

 となります。

 

この「無限小バトル」は私の思いつきというわけではなく、大学の微分積分学の教科書で「高位の無限小」などといった言葉で扱われている概念にあたります。

実際、ルール1または2で勝敗を決する時、

 x \to 0において、“勝者の関数”は“敗者の関数”より高位の無限小である」

といい、ルール3で勝敗を決する時、

 x \to 0において、 f(x) g(x) は同位の無限小である」

といいます。

例えば、有名な公式

{ \displaystyle \begin{equation} \lim_{x \to 0}\frac{\sin x}{x} =1 \end{equation}}

 は、

 f(x)= \sin x g(x)=x は無限小バトルにおいて『完全に互角である』」

ということを意味しているわけです。

こんな風に考えると、関数を登場人物にしたバトル漫画などが浮かんできませんか?^ ^笑

 

微分可能な関数」=「 g(x)=x と互角以上の奴ら」

さて、ここまでくると、実際に色々な関数同士を戦わせてみたくなると思います。(…ならない?笑)

しかし、実際の極限計算はめんどくさそう…と思いませんか?

実は、「初等関数の微分」を習った方は、既に多くの関数同士の勝敗を知っているのです。

 

まず、 x=aの近くで定義されている好きな関数 f(x)を用意します。

このとき、 \widetilde{f}(x)=f(x+a)-f(a) g(x)=x で無限小バトルをしてみると、

{ \displaystyle \begin{equation} \lim_{x \to 0}\frac{\widetilde{f}(x)}{x} = \lim_{x \to 0}\frac{f(x+a)-f(a)}{x} \end{equation}}

の極限が問題になります。

 これはまさに、 f(x) x=a における微分可能性を定める極限です!そして、

 f(x) x=a において微分可能」  \Leftrightarrow \widetilde{f}(x) g(x)=xに圧勝する、または判定にもつれ込む」

という結論が得られます。特に、ルール3が適用される場合は「 \alpha= f'(a)」となるわけです。

 

さらに、 g(x)=x と判定までもつれ込む関数同士(つまり、 g(x)=x と同位の関数同士)であれば、

{ \displaystyle \begin{equation} \lim_{x \to 0}\frac{f_1(x)}{f_2(x)} = \lim_{x \to 0}\frac{\frac{f_1(x)-f_1(0)}{x}}{\frac{f_2(x)-f_2(0)}{x}} = \frac{f'_1(0)}{f'_2(0)} \end{equation}}

 となり、導関数から勝敗を決めることができるわけです。

 

さらなる発展性:高階導関数との関係

この話、「たまたま上手くいっているだけでは?」と思う方もいるかもしれませんが、私はこの「無限小バトル」こそ、「微分」の一つの本質だと考えています。

それが垣間見える話として、最後に高階導関数の話も少ししましょう。

 

上の話を通して、

 g(x)=xと同位の関数については、導関数を見ることで勝敗がわかる

ということが分かったと思います。

一方、 g(x)=xより高位の関数同士については、「微分可能」ではあるものの、極限は

{ \displaystyle \begin{equation} \lim_{x \to 0}\frac{f_1(x)}{f_2(x)} = \lim_{x \to 0}\frac{\frac{f_1(x)-f_1(0)}{x}}{\frac{f_2(x)-f_2(0)}{x}} = \frac{0}{0} \end{equation}}

 となってしまうため勝敗が分かりません。

しかも、 f(x) g(x)=xと同位の関数のとき、

 \bar{f}(x):=f(x)- f'(0)x

とおいてしまえば、

{ \displaystyle \begin{equation} \lim_{x \to 0}\frac{\bar{f}(x)}{x} = \lim_{x \to 0}\frac{f(x)-f'(0)x}{x} = \lim_{x \to 0}\frac{f(x)}{x} -f'(0) = 0 \end{equation}}

 となるため、簡単に g(x)=xより高位の関数が作れてしまいます。

 

では、ここで手詰まりか?と思うとそうではなく、今度はこの  \bar{f}(x) g(x)= x^2 を競わせることで、 \bar{f}(x)の“強さ”を計ることができます。実際、ロピタルの定理 が使える場合は、

{ \displaystyle \begin{equation} \lim_{x \to 0}\frac{\bar{f}(x)}{x^2} = \lim_{x \to 0}\frac{f'(x)-f'(0)}{2x} = \frac{1}{2} \lim_{x \to 0}\frac{f'(x)-f'(0)}{x}  \end{equation}}

が簡単に証明でき、 \bar{f}(x) g(x)= x^2 の間の無限小バトルは「 f(x) x=0 における2階微分可能性」に帰着できるのです。

このように、無限小バトルは高階導関数にも自然に繋がっており、さらには偏微分可能性・漸近展開・多様体論の導入などにも繋がっていきます。

まとめ

今回はいつも以上に遊び心を取り入れてみましたが、いかがだったでしょうか?

「無限小」や「微分」の捉え方は人それぞれで、もしかしたら私の考え方は腑に落ちない、という方もいるかもしれません。

そういった意見も含めて、もっと議論が豊かになり、お互いの数学観を深められるような交流を、今後も皆さんとしていきたいと願っております^ ^♪

 

*1:今回は特に、連続関数のみを考えていると思ってください。

*2: aの取り方によって \widetilde{f}は変わるので注意してください。