新米数学博士の数学談話室

新米数学博士の数学談話室

数学基礎論からじっくり議論するブログです。

基礎論Vol.4:集合が「等しい」とはなにか?

こんにちは!ルシアンです。

今日は、基礎論の続きのお話です。前の記事から10日以上経ってしまってすみません>_<

いよいよ、公理的集合論の「公理系」について紹介していきます。

 

前回のおさらい

まずは、前回のおさらいです。

(前回→基礎論Vol.3:なぜ「公理的集合論」は必要なのか? - 新米数学博士の数学談話室

前回の記事では、次のラッセルのパラドックスを紹介しました。

 

ラッセルのパラドックス \{x \mid x \notin x \}が集合として扱われる「集合論」は、すべて矛盾した理論となる。

 

したがって、「 x \in S \Leftrightarrow x \notin x」を みたすような名詞 Sが集合として扱われないように、慎重に「集合の全体」を定めなければいけないのでした。

そして、これから解説するZFC公理系はその成功例、というわけです。

f:id:Lucien0308:20171224023255g:plain

では、そのZFC公理系によって定められる公理的集合論について、実際に見ていきましょう。

 

公理的集合論を始める準備

私たちはこの公理的集合論を厳密に定義するために、Vol.1 ,Vol.2で「記号論理学」を用意しました。

なので、これから始める「公理的集合論」も、記号論理学の意味での「理論」として扱えるように、きちんと見ていきましょう。

 

使える「記号」を定める

記号論理学では、使える記号は3種類で、特に理論ごとに定められるのは「特殊記号」でした。

公理的集合論で扱う特殊記号は、重み2の特殊記号「 \in」および「 =」の2つのみです。

したがって、公理的集合論で用いる記号は次のものに限られます。

  1. 論理記号:\tau,\lor,\lnot
  2. 文字:x,y,z,\ldots (未使用の文字は何でも使える)
  3. 特殊記号: \in,=

 

特殊記号「 =」について

 \in」という記号は集合論以外であまり見ないですが、等号「 =」はどの数学でも出てくる、と言っていいほど登場しますよね。

この「 =」という概念が、記号論理学上でどんな意味なのかを見てみましょう。

=」の意味は、次の2つの公理によって定められます。

 

1.文字 x名詞 T,U、および命題 Rについて、「 T=U \Rightarrow (R|_{x=T} \Leftrightarrow R|_{x=U})」は真である。

2.文字 x、および命題 R,Sについて、「 \big( ^{\forall}x, (R \Leftrightarrow S) ) \big) \Rightarrow \tau x R = \tau x S」は真である。

 

公理2は「システム上必要な公理」という趣なので詳しくは述べませんが、公理1は

「『 =』で結ばれた名詞同士は、いくら置き換えても命題の真偽がかわらない」

ということを意味しています。

これはとても大事な公理です。例えば、日常的には「 1+1」はいつでも「 2」に置き換えることができます。しかし記号論理学では、 1+1」と「 2」は異なる記号列(名詞)として定義されます。したがって、「『 1+1=2』は真」という事実と公理1を用いなければ、 1+1」と「 2」を置き換えることすらできないのです。

 

一般に、特殊記号「 =」と、上の2つの公理をもつ理論を等号をもつ理論と言います。  公理的集合論は、「等号を持つ理論」の一つの具体例になっています。

 

「集合全体のあつまり」の導入

今後、前回(Vol.3)のような失敗が起こらないように、「与えられた名詞が集合かどうか」を慎重に議論していきます。そのために、「 \mathcal{S}」という特別な文字を用意して、

「名詞 aは集合である」 \leftrightarrow a \in \mathcal{S}

と対応するように、公理を導入していきます。(この \mathcal{S}は“集合ではない”、すなわち「『 \mathcal{S} \notin \mathcal{S}』は真である」ということが、後々証明できます。)

 

また、今後

「任意の集合 xについて、命題 Pがなりたつ」

といった命題を頻繁に使います。これは、正確には

 ^{\forall}x, \big( (x\in S) \Rightarrow P \big)

と書かれるのですが、これは数学でよく使われている

 ^{\forall}x \in S,  P

という表記と同じ意味なので、今後はこちらを用います。

 

第1の公理:外延性の公理

 それでは、ようやく「第1の公理」の登場です。笑

第1の公理は、外延性の公理と呼ばれる次の公理です。

 

S1.外延性の公理:「 ^{\forall} a,b \in S, \big( a=b \Leftrightarrow \ ^{\forall}x, (x \in a \Leftrightarrow x \in b) \big)」を真とする。

 

記号列だと読み取りにくいかも知れませんが、少し日本語を使って書くと、

「任意の a,b \in Sについて、『 a=b \Leftrightarrow  a bは元を全て共有している』が成り立つ」

ということを意味しています。これは、

集合は、「何を元にもつか」以外の情報をもたない

とも言い換えることが出来ます。

つまり、「集合 aを調べる」といったときは、 aの元は何か」だけ気にすればよいということです。

 

 「この公理がいかに重要か」ということは、第2の公理「空集合の存在公理」を導入したときにまた実感できると思います。

 

あとがき+今後の更新頻度について

今回は第1の公理「外延性の公理」を導入しました。あまり具体的な話はできなかったのですが、「数学において『 1+1 =2』は当たり前じゃない」ということが伝わったなら嬉しいです^ ^!

 

今日は、今後の「数学基礎シリーズ」の更新頻度について少しお話したいです。

もともと、このシリーズは

「数学をすごく厳密なところから、じっくり解説したい!」

という思いで始めており、また前提知識は要らないように書いてきました。

しかし、内容の抽象度が高く、なかなか多くの人に親しんでもらえるように解説するのは難しいと感じています…。

 

そこで、今後このシリーズの更新頻度は「2週に1回程度」でやっていきたいと思います。(楽しみにして下さっている方は、頻度が減ってしまい申し訳ありません…。)

その代わり、このシリーズの合間に、

集合論」「位相論」「群論

などもう少し具体的な数学について、自分なりの解説をしていきたいと思います^ ^

 

最終的には、この「数学基礎論シリーズ」を源流として枝分かれしていく「数学体系」が作れたらいいなぁ、などという大それた妄想をしております。笑

ということで、大変ゆっくりなペースでの更新となってしまいますが、今後も読んでいただければ嬉しいです!どうぞよろしくお願いします♪